香港

1984年、旅の帰路、飛行機の乗り換えのため、香港に寄った。短時間だったが、入国手続きをして、町へ入った。

啓徳空港

1984.1.21

インド・ボンベイ発120スイス航空で香港に835に着く。乗り換えのJAL14:10発なので、4時間ほど時間が空く。折角だから、香港の町を見ることにした。しかし、啓徳飛行場への着陸時、肝を冷やした。着陸寸前、窓から外を見ていると、乱立するビル群が真横を通り過ぎていく。このままだと、ビルに突っ込むと思えたが、何とか着地して、一息ついた。タラップを降りて、前方を見ると滑走路の先がない。着陸操作を誤るとえらいことになると思った。後で聞いたら、世界で最も危ない空港の一つだそうだ。


海側から着地したと思い込んでいたが、実際は山側から下りて、海に向かうコースだった。しかも山が空港のすぐ裏にあるので、まっすぐ着地できず、真横から入り直角に旋回して、ビル群すれすれ高さから滑走路に着陸するというアクロバットまがいの操縦技術が必要だったようである。


香港を中国に返還する際の英国の置き土産として、新しい空港を作ることになったが、返還に間に合わず、一年後の1998年に人工島の上に新空港が開港した。恐怖のランディングはなくなった。旧空港の滑走路は残っていて、地図の上で確認できる。

香港島

短時間だったが、香港の中心である香港島に行った。大陸と地続きの九龍半島にある啓徳空港から、香港島にフェリーで渡る。山だらけの島の北側、つまり九龍半島に面する、わずかな平地の部分が香港の中心部で、東西に貫通するメインストリート、クイーンズウエイをぶらぶらと歩く。通りの周りはビル群で囲まれているが、漢字の看板で覆われていて、全て中華風にデコレーションされている。他の国で見る中華街とは一味違う。通りは縦看板と食べ物屋、薬屋で充満しているように見えた。上を見上げると山の天辺まで、超高層ビルがびっしりと立ち並んでいる。クイーンズウエイは600m位の長さだそうだが、イースト、セントラル、ウエストに区分され、金鐘、中環、上環地区に区分されている。ニューヨークを中国風に作り上げると、こうなるかと、ぼんやり考えながら、時間もないことから、人から聞いてきた山の上に登ることにした。


1841年、英国が中国に割譲させたのは香港島だけだった。そのあと、九龍半島も獲得した。さらに、九龍半島と本土の間の地域(新界)を租借し、これらを合わせて、現在の香港となっている。新界は香港島と九龍の周辺の土地で、現在の香港国際空港のあるランタウ島も含まれる。

 ヴィクトリア・ピーク・タワー

香港の全景を見るために、ピーク・トラムというケーブル・カーに乗る。中環にある乗り場から10分位で、山頂駅に到着する。山頂駅と云ってもピーク・タワーというビルと直結しているので、山に登った気分は全くしない。しかし、ピーク・トラムもピーク・タワーも混んでいて、外がよく見えない。落ち着いて見渡す暇もなく、さっさと降りる。100万ドルの夜景と云われる夜の風景が素晴らしいのだそうだが、トランジット客では夜まで待てず、山が超高層ビルの森になっている島という印象だけを持ち帰って、香港を後にすることになった。


海面から傾斜地まで高層ビルがびっしりと埋め尽くしている景色は確かに壮観であり、他では見られないだろう。なんでこんな崖だらけの小島に無数の高層ビルを建てたのだろうと、不思議な気がした。英国の植民地区域に限定されたためということは分かるが。

 ネイザンロード(九龍)

空港に戻る途中、買い物をすることにした。香港島から九龍半島に戻ると、ネイザンロードと云う通りがあって、買い物ができると聞いたので、うろついた。日曜なので、大半の店が閉まっていたが、バーバリーのトレンチコートを売っている店を見つけ、値段交渉をした。結局高いのか安いのか判らないまま買わされた。ひょっとしたら偽物かもしれない。縫製がいい加減だったからである。しかしロンドン本店で買ったバーバリーの縫製も怪しかったので、偽物と決めつけるわけにもいかない。生地はしっかりしていたので、本物と思うことにした。真偽のほどはいまだに判らない。ネイザンロードは九龍半島の真ん中を南北に走っている大通りで、商店、レストラン等が多くあり、旅行者で溢れかえっている。香港島の金鐘、中環、上環地区のような異次元に来たという感じはなく、どちらかというと普通の街並みだった。


あとでガイドブックを見ると、ネイザンロードだけが、いわゆる都会の大通りであって、脇に入ると香港島の通り以上の中華街だそうだ。ネイザンロードはイギリスが作り上げたストリートで、香港スタイルではないのに、気が付かなかった。短い滞在で、せわしない覗き見だったからやむを得ない。写真も撮った筈だが、残っていない。パンフ類もない。やむを得ず、インターネット上で、記憶に近い写真を探し出して、説明用に載せることにした。密集高層ビル群に中華風装いが溶け込んで、中国でもない、英国でもない、なんともいえぬ異様な存在感を醸し出している。2019年現在、大混乱に陥っているが、いい悪い、をさておいて、12制度には無理があると感じる。50年後までにどのような変化を遂げるのだろうか。

SF映画で中華街化した都市を見ることがあるが、まさに香港は現代都市が中華街化した現実で、奇妙奇天烈な存在は強烈なイメージとしていつまでも頭から離れない。