タイ王国
タイに行ってきた人は多いようで、タイ旅行は今更珍しくも何ともないと云うことだが、当方には今まで縁がなかった。しかし、2007年に、新しくできた研究施設を訪問する機会に恵まれ、1週間滞在した。
バンコク
2007.7.1
成田を10:30に離陸し、15:05にバンコクに着いた。タイに初めて来た。どこを見ても、見たことあるような既視感と、どこか違うという違和感とが共存する。飛行機からの眺めは、東南アジアらしい風景が広がっているが、他の国とは違って規則正しく水田が短冊型に敷き詰められている。空港からはアメリカのハイウエイそっくりの高速道路で都心に向かったが、道路沿いに巨大な国王殿下のポスターが次々と出現し、タイが王国であることを改めて認識した。他の首都同様、高層ビルも建っているが、散らばって存在し、あちこちに天に向かって杭が突きだした格好になっている。つまり高層ビルが庶民の町中に割り込んでいる。町並みはシンガポールほど潔癖ではないが、インドのような道路居住者は見あたらない。おとなしそうで、実は手強く、また、猥雑なようで、取り澄ましているような雰囲気を持った国である。近代に入り、植民地化を免れ、独立王国として歩んできたタイの強みはこんなところにあるのかも知れない。
宿舎のImperial Queen's Park Hotel に入る。ホテルなのだが、一部は長期滞在用の居住区になっている。そこに住んでいる知人のアパートに転がり込んだ。アパートと云っても数部屋はあるし、天井も高く、ひんやりと涼しく快適な居住空間であった。
ホテルはスクムウイット通りにある。バンコクの中心から東へ、高架鉄道で五つ目のプロムポン駅の近くになる。この地区は外国人向けのホテル、ショップ、レストランが多い。夕方ホテルの裏口を出て、ベーンチャシリ公園を抜け、エンポリアム(高級デパート)で夕食を買うのが日課だった。
テクノパーク(パトムタニ県クローンルワン郡)
2007.7.2
首都バンコックから、アユタヤに向かって北へ約40km、テクノパークの中にある研究施設を訪ねた。
1997年のアジア経済危機の教訓により、タイ王国開発プログラムで経済基盤の整備が重点的に取り上げられ、その一つとして、国立研究施設が建設された。見学・取材を勧められたので、現地にやって来た。日本の協力の下に出来上がった研究所は設立間もないこともあって、周りはまだ充分整備されていなかったが、設備・建物はよくできている。直射日光を避けるために逆ピラミッド型の建物になっているなど、スマートなデザインとなっている。しかも最新の設備・機器がそろっている。研究員が100名、技術者が50名とやや小ぶりだが、当地の企業に云わせると、最新設備が整ったことで満足とのこと、人は後から付いてくるとのこと。何しろ、これまでは、外国に頼ってきた基盤技術を国として供給できるようになったことは素晴らしいことだと歓迎していた。
人材教育のため、多くの日タイ技術者が2国間を往復している状況を知り、国際協力の実際を目の当たりにした。
アマタナコン工業団地(チョンブリー県)
バンコクの南東にあるチョンブリー県に日系企業が集まっている工業団地がある。
2007.7.3
バンコクから高速道路で南下する。曇りがちの天気だが、時々、雨の降っている区域を通り抜ける。一舜にして、土砂降りの中に突っ込み、2,3分でからりと晴れる。いわゆるスコールである。これを繰り返しながら、1時間ほど走り、アマタナコン工業団地に到着した。団地内には、大名屋敷のような、結構広い敷地を持つ工場群が整然と並び、日本でもあまり見たことのない光景になっている(日本の工業団地よりはるかに規模が大きい)。ほとんどが著名な日本企業の工場である。工場の中はかなり良く整理されているが、チリ一つないという訳にはいかない。敷地からそのまま、仕切りもなく、建物に入れるところも多い。人は良く動いている。結構生産性も高そう。
聞くところによると、この団地には約300社、うち7割は日系企業だそうだ。さらに、ここを含めて、バンコク北のアユタヤから南のパタヤまで数十の工業団地があるらしい。チョンブリの南のシラチャには日本人学校もあるとのこと。なるほど、これでは日本から工場が無くなっていくわけだと実感した。
バンコク市内
2007.7.4
バンコク市内のいくつかの日系企業を訪れる。日本国内を回っているのと何も変わらない。場所は日本のどこかだが、タイの人に囲まれているのが奇妙と思ってしまうという倒錯した感覚が残る。日本人が来たがる筈だ。
午後、市内をあちこち散策する。スアン・ルム・ナイトバザール(タイ雑貨やファッション等)にも行く。夜はジョー・ルイス・レストランに行った。
チャオプラヤー川の湾曲部にある王宮の東になるサヤーム(シャム)スクエアから、さらに東へ伸びて、スクムウイット通りと繋がる高架鉄道、そして地下鉄で、バンコク市内を大体カバーできる。行き交う人々は若く、溌剌としている。軍部と人民派の争いでいつも騒がしいが、国を壊すところまではいかないだろう。
スアン・ルム・ナイトバザールはルンビニ公園近くにあったが、今は遠くに移った。ジョー・ルイス・レストランはパペットシアター(人形劇場)の附属施設だったのだが、今では人形劇場そのものは姿を消したらしい。
2007.7.5
この日はバンコクの古い地区である王宮周辺を廻った。古い町並が残る市街で、地下鉄も高架鉄道もここを迂回して走っている。やはり王宮は観光の目玉である。
ワット・アルン(暁の寺)
チャオプラヤー川を挟んで、王宮と反対側に立つ寺。王宮側から渡し船に乗る。チャオプラヤー川は、どぶ色の水で溢れている。渡し船に若い坊さんが一人乗っている。ワット・アルンの大仏塔が鈍く反射している。近寄ってみると無数の陶器片が張り付けてある。朝日に当れば輝くだろうとは思う。塔に登ろうとしたが、急すぎてとても登れなかった。
三島由紀夫の暁の寺を読んでいないが、実物から夢を紡ぐのは難しかった。
王宮周辺
2007.7.5
18世紀に現チャクリー王朝のラーマ一世が作った王宮である。1.9km四方の城壁に囲まれた敷地に宮殿、ワット・プラケオ(エメラルド寺院)を初めとする数々の宮殿がある。
ワット・ポー
ワット・アルンから戻り、まず王宮の南側のワット・ポーに行く。巨大な釈迦涅槃仏像がある。お堂一杯の寝姿は大きすぎて一枚の写真で写しきれない。裏側の長く伸びた廊下に108の鉢が並んでいる。硬貨を一枚ずつ入れていくことに成功すると108の煩悩を捨てられると聞いて、試したが、途中で判らなくなった。煩悩は簡単には捨てられそうもない。また、このお寺がタイ古式マッサージの総本山だそうで、ワット・ポー伝統医学校がある。実はタイ式マッサージが長い歴史を持つ宮廷医療で、無形文化遺産だとは知らなかった。本堂を出ると、仏塔が林立している。歴代王家のお墓ということである。
釈迦涅槃寝仏像は大きい。長さ46メートル、高さ15メートルの金色像で、足の裏の模様に、いろいろな真理が書かれているのだそうだ。
ワット・プラケオ(エメラルド佛寺院)
王宮敷地に足を踏み入れる。低い回廊で囲まれたワット・プラケオに行く。王家の守護寺院である。名高いエメラルド佛を見に行く。すごい人混み、見るのが大変、本堂の中は写真禁止、外から撮る。実際には緑色翡翠の像とのこと。境内(テラス)の建物群には黄金仏塔、経堂、ロイヤル・パンテオン、アンコールワットの模型などがあり、ちょっと異色の存在感がある。
エメラルド佛は高さ66センチ、幅48センチとそれほど大きい像ではない。1434年に仏塔の中から発見され、王朝の変遷に伴って、あちこち動いたが、1784年に現寺院に落ち着いたとのこと。王家の寺院なので、僧侶はいない。
チャックリー宮殿
1882年の王朝100年祭に完成した。タイと英国の混合建築様式で建てられている。今はレセプション・ホールとして使われている。
純然たるタイ式建物ではないので、あまり魅力はない。
ドゥシット・マハー・プラサート宮殿
チャックリー宮殿の西側に立っている、変わった宮殿。亡くなった前国王の告別会場だった。戴冠式にも使用されたとのこと。
十字型の建物で、屋根の構造がユニークである。
他にも多くの建物があり、あちこち回ったが、広いし、人も多く、かなり疲れた。
この後、パトムタニに戻り、夕方野外で食事会。ため池をバックに、そよそよ風が吹き、楽しい宴であった。
2007.7.6
仕事の残りを片付け、町に出て、買い物をする。ジム・トンプソンでタイ・シルクをお土産に買った。翌7日、8:10バンコクを発ち、16:00に成田に戻った。
ジム・トンプソンはタイシルクを世間に広めたことで有名である。第二次世界大戦末期、諜報員として活躍したが、最後は失踪して生死不明になるなどスパイらしい話が伝わっている。
実はもう一度タイに行きたい。目的はフルーツである。どこに行かなくてもよい。スーパーマーケットにさえ行ければ十分である。そこで熟した果物をしこたま買い込んで、一日中食べていたいと思う。今回食べたのは、メロン、マンゴスチン、パパイヤ、マンゴー、ジャワフトモモ(名前が魅惑的)、ドラゴンフルーツ、ポメロ(ミカンの一種)、釈迦頭、ライチー、ドリアンである。ドリアンはもちろん美味しかったが、驚いたのはライチーだった。中国あたりで食べたライチーは感心しなかったが、タイのライチーは別物だった。毎朝朝食はライチーだった。釈迦頭はなるほどパンチパーマのボールのような格好をしている。熟しているパンチパーマは手の中で勝手にほぐれてしまう。それをずるずると啜るように食べる。結構甘い。ドラゴンフルーツは外観の割に甘くない。なんと砂糖と塩と唐辛子を混ぜた粉を付けて食べるのだという。なるほど美味しくなる。しかし、なんと果物に砂糖をつけて食べるとは・・・。
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